尾崎 社内評価の基準、ビジネスマナーはどう変わった? コロナが促進した「サスティナブル」な働き方と仕事観

◆テレワークによって、働き方への問いかけと見直しが促進された

コロナウイルスの影響で始まったテレワークは、私たちの仕事にどのような影響をもたらしたのでしょうか。

まずはポジティブ要素・ネガティブ要素に分けて捉えてみたいと思います。

◆仕事への影響|ポジティブな要素

◇1.評価の基準が「時間」→「成果」に変化した

これまでの「いかに会社に長くいたか」という暗黙の評価基準が無くなったことで、子育て中の(時短勤務などの)人が働きやすくなったといえるでしょう。

夕方に「すみませんが、お先に失礼します」と、そそくさとオフィスを後にする、あの罪悪感が無くなったのですから。

もちろん人によって違いはありますが、制約のある働き方をしている人のパフォーマンスは高いものです。それが、おおいに発揮できるようになりました。

◇2.時間と場所の概念が変わった

オフィスへの通勤が無くなった(または減った)ことで、使える時間が増えた人がほとんどでしょう。特に子育て中の親にとっては、朝と晩のバタバタが多少なりとも軽減されたのではないでしょうか。

一見「時間が増えた」というシンプルな事実に見えますが、通勤が無くなる(減る)ことは、働き手の多様性(小さい子供を持つ親、ハンディキャップを持つ人)にとっては追い風となるチャンスなのです。

◇3.ビジネスマナー・文化が変わった

もしもこれを読んでらっしゃる方の中に営業職がいたら、ぜひ思い出していただきたいのですが、これまで働いてきた中で「初めてのご挨拶をオンラインでする」という経験があったでしょうか?

あったとしても、すごく少ないか、ものすごく遠方のお客様か……。

そして、ご挨拶の冒頭で「今日はこのような形でのご挨拶となり、大変申し訳ありません……」など、直接お伺いできないことに対するお詫びをお伝えしたことはありませんか?(実は私がそうでした)

これまで「オンライン」でお客様と接続するのは、「少し失礼」という雰囲気があったように思います(初めましてのご挨拶の際は、特に)。

でも今はどうでしょうか? 誰もが普通のように、オンラインで商談や打ち合わせをしているのです。2019年の私たちが聞いたら、「信じられない!」と目を丸くすることでしょう。

その他、テレワークが進む中で、上座・下座の概念(ミーティングルームで気にしていましたよね)や、名刺交換(紙の名刺は使わなくなりました)や印鑑など、マナーや文化がどんどん消えていっています。

日本人らしい、丁寧なマナー・文化は、捉えようによっては美しいと思いますが、ちょっと窮屈なのも確かでした。それが今、急速にゆるくなっています。

◆仕事への影響|ネガティブな要素

もちろん、良いことばかりが起きているわけではありません。

テレワークが長期化するにつれ、仕事の場に問題も生まれてきました。

◇1.評価基準の整備遅れ

これは前述の“ポジティブな要素”と相反しますが、実のところ、突然訪れた「評価基準は時間→成果」という大きな価値転換に追いつけていない企業が多く、テレワーク下での人事考課は各企業で大きな課題となっています。

「これまでの評価シートでは、部下を評価できない」

「テレワークには慣れたけれど、果たして私は正当に評価されるのか不安……」

このような声を多く聞きます。

この課題は、多くの企業で今後も続いていくのではないでしょうか。

◇2.テレワークが生み出す長時間労働・過重労働

場所を選ばないことで、一見効率的に見えるテレワークですが、逆に長時間労働や過重労働を招いているケースが多く挙がっているようです。

“ポジティブな要素”でも挙げたように、通勤や移動時間が無くなった分、

起きてすぐにPCを開いて、次のオンラインMTGまで仕事

→オンラインMTG(30分)

→それが終わったら次のオンラインMTG(30分)

→パソコンで資料を眺めながらランチ

のように、いくらでも予定を詰め込めるようになりました。

さらに、打ち合わせの時間も、これまで1時間単位が一般的であったのに、15分や30分など、刻み方が細かくなったのも注目すべき点です。

◇3.何気ない雑談や気持ちの共有の機会減少

テレワークを始めたばかりの頃、多くの人が陥る「さみしい」という感覚がこれです。これまで当たり前のようにオフィスに出社して働いていた頃「会社に行くの面倒くさいな」「同僚と話すの、面倒くさい時があるな」と感じていたのにも関わらず、いざそれが無くなってみると……。

意外にも「さみしい」「会社に行きたい」とSNSなどで呟く人々が少なからず出てきました。また「在宅疲れ」という言葉も生まれました。

「そういえばこの間の週末、〇〇行ってきてね……」

「あそこのランチ、美味しかったよ!……」

「今日の服、いい感じじゃん……」

「あ、〇〇さん、お久しぶりですね~……」

「あのお客さん、いい人だよね~……」

と、オフィスで偶然すれ違った際に起こる他愛もない雑談が、いかに私たちの日常を優しく包んでいたのかを、私もたまに懐かしく思い出すことがあります。

そんな中で一部の企業では、「共創の場」として、目的を持った出社を定義しようという動きが出てきています。


◆変化した仕事観

ここまで、テレワークが仕事にもたらした影響について、ポジティブ・ネガティブの2つに整理してご紹介しました。

ではこの影響下で働いたことで、私たちの仕事観はどのように変化したのでしょうか?

序章で少し触れましたが、コロナ前の仕事観についてikumadoメンバーの意見を集めたところ、家庭や子育てよりも仕事優先の印象がありました。

そこで同じメンバーに現在の働き方や気持ちについて聞いたところ、次のような内容でした。

・「いかに自分らしい働き方を確立し、周囲との関係性をつくるか」を考えるようになった。

・「自分の人生を会社に決められたくない」と思うようになった。

・仕事がテレワークになり出社する必要がないので、定時内で無理なく働ける。家で仕事をしながら、学童から帰宅した子供を迎えられるので「小1の壁」が少し怖くなくなった。

・子供との時間は絶対守ると決めた。

・時間・場所の制約が無くなった(少なくなった)ことで、仕事・家族・学びなどの予定を自由に組み立ててマネジメントできるようになり、これまでバラバラだった全てが溶け合ってきたように感じる。それによって自分の「軸」を意識するようになった。

いずれの内容からも、コロナ前からの大きな変化を感じずにはいられません。本章の前半でご紹介したように、新たな働き方にはネガティブな要素はありつつも、人々の中で急速に「自分の仕事・働き方への問いかけと見直し」が促進したのがわかります。

いわば、最近色々な場所で耳にするようになった「サスティナブル(持続可能な)」というキーワードが、働き方・仕事観にも取り入れられ始めたということではないでしょうか。